2025年 第39回人工知能学会(JSAI)

こんにちは、fuku株式会社のリサーチャー鈴木貴之です。AIの勉強のため、初めて人工知能学会 (JSAI) に参加しました。これまでは主に生命科学の学会に出ることが多かったため、今回はとても新鮮な体験でした。さまざまな方々のAIに対する考え方や活用事例、開発・応用の研究に触れることができ、大変ながらも充実した4日間となりました。

第39回JSAI at 大阪国際会議場

全体的な感想

学会では最大17のセッションが同時に進行していて、気になる講演も多かったので、どこに行こうか迷う場面が多々あったのですが、JSAIは全ての講演が録画されているため、後日視聴できる点が非常に助かりました。全てを見返すことは流石に難しかったですが、気になっていた講演や、聞き直したい講演を、後から視聴できたことで理解が深まったように思います。

ポスターセッションもとても活気があり、なかなか入り込むのが大変なほど盛り上がっていました。3日間に分かれて展示されていたため、1日あたりのポスター数は多すぎず、歩きながら興味のある発表を選んで話を聞けたことも良かったと思います。コーヒーやオレンジジュース、お菓子が提供されている点もありがたかいポイントでした。

企業ブースについては、やはりAIを活用したシステム開発を行っている企業が多数出展している印象でした。学生向けの懇親会や「人材募集中」といった案内も多く見かけたので、学生の方にとっては特に有意義な場になっているのではないかと思いました。

印象に残ったセッション

今回の学会で個人的に印象に残っているセッションは下記です。

エージェントの性質について

最近はエージェントという言葉をよく耳にするようになりました。人間を介さず、AI同士がやり取りを行うシステム開発が多く進んでいる中で、エージェント同士の対話によってその性質がどう変化するのか、というテーマは非常に興味深く感じました。

相良先生(静岡県立大学)は、きのこの山派とたけのこの里派のLLMに、利己的・協力的・利他的のいずれかのパーソナリティを与え、対話を通じて性質がどう変化するかを数理的に評価されていました。宮澤先生(大阪大学)は、エージェントに職業を割り当てたうえで仮想空間で週末を過ごさせ、その中で趣味や嗜好がどう変化するかを観察した研究成果を紹介されていました。

エージェントによる問題解決タスク性能の評価手法はいくつかみたことがありましたが、性格や嗜好性といった「LLMに付与される人間的な性質」の変化を可視化・評価する仕組みについてはあまり見たことがなかったので、とても印象的でした。こうした研究が進むことで、エージェントの活用範囲もさらに広がるかもしれないと感じました。

ナラティブと人工知能について

タイトルに惹かれてふらっと入ってみたセッションでしたが、哲学・文学・歴史学などさまざまな分野の先生方が、「ナラティブ」という一見抽象的なテーマをAIと結びつけた講演およびパネルディスカッションがされていました。普段あまり人文学に触れることがない自分にとって、かなり刺激的な講演でした。

総研大の前山先生は、「過去と歴史と私たちとAI」という幅広いテーマについて、コンピュータの歴史研究者として発表されていました。生成AIが大量の情報を生み出している今、歴史学にどう活用できるのか、どのような影響を与えるか、という視点は興味深かったです。

特に印象に残った点は、「これまでの歴史学は、限られた記録資料しかない時代を扱ってきたが、現代は誰もが情報の生産者となっている。これは人類史上初めての状況であり、生成AIはそれらを可視化することで歴史研究の広がりに寄与する可能性がある」という議論です。AIに加えて人間による情報量も多い中で、AIが学問へ与える影響という観点から示唆に富んでいると感じました。

AIサイエンティスト

こちらは個人的にも、会社としても、そして社会全体としてもホットなテーマかと思います。弊社代表の山田がパネルディスカッションの一員として参壇していました。

過去の知見に基づく仮説構築、再現性ある検証、論文執筆など、研究における様々なタスクは、AIが比較的得意な領域なのではないかと考えられはじめています。このセッションでは、今のAI駆動科学がどの段階にあるのか、AI生成の論文と人間が書く論文の違いや今後の共存のかたち、AI時代に求められるスキルとは何か、といった議論が行われていました。

中でも印象に残った、「本当にその研究成果を必要としている人にとっては、それがAIによって書かれたか人間によるものかは重要ではなく、情報の質が最も大事」という指摘です。まさにその通りだと共感しました。また、今後人間に求められる重要なスキルとして「課題を理解する能力」と「その課題を言語で表現する力」が挙げられていた点も、とても納得感がありました。

最後に

初参加でしたが、とても学びの多い4日間となりました。これまであまり接点のない分野にも多く触れることができて、大きな刺激になったと感じています。来年以降ももしタイミングがあればぜひ参加したいと思っています。

※本記事は、鈴木貴之個人の学会参加に基づいた感想・意見です。記載された講演内容や見解は、発表者ご本人および学会公式の見解とは異なる可能性があります。